何を AI に頼むかは、最初から決めていたわけではない。記録の最古は、役割ごとの AI を 4 つ作ってその日のうちに動かし終えた日のメモで、頼むこと自体は初日から始まっている。それでも、何を任せ、何を手元に残すかの線は、使いながら少しずつ引き直していった。振り返ると、その線を決めていたのは、同じところで 2 回つまずいたかどうかだった。
この記事では、それを記録から確かめる。最初に何を頼み、何が続き、何が続かなかったのか。そして任せる作業と手元に残す作業は、どういう線で分かれていったのか。対象は記録の最古から最初の約 3 か月で、決定が 140 件ほど、失敗が 50 件あまり、セッションの要約が 100 件近くある。そこから任せた作業を 34 件、任せなかった、あるいはやめた作業を 20 件洗い出した。この記事は、その一覧から拾える範囲のことだけを書く。一般的な「AI に任せられる仕事」の一覧は作っていない。
最初に頼んだのは、調べものだった
役割を 4 つ作った経緯は AI に指示ではなく環境を渡すようになるまで に書いた。ここでは、その役割に最初に何を渡したのかを記録で見る。
調査の記録の最古は 2 件で、どちらも同じ日付になっている。通販サイトで商品をいくつか選んで比べる、ブラウザの拡張機能を作れるかどうかの調査である。1 件目は規約と技術の面、2 件目は各社の API の制約を見ている。翌日には、記事に入れる図解の実態調査と、X を Claude Code から操作する道具の選定が続く。どれも調べて文章で返ってくる仕事で、結果が外れていても、手元のファイルには何も残らない。
最初の週の作業ログには、調べもの以外のものも並んでいる。自作の Web アプリの見た目を切り替えるテーマを、1 日のうちに 4 系統、それぞれ 24 ファイルずつ実装させた記録がある。紹介ページのコードレビューを頼んで、重要度の高い指摘が 3 件、中が 5 件、低が 4 件返ってきた記録もある。
記録から読み取れるのは、頼む対象を探した形跡がないことである。手元にあった作業を、そのまま渡している。何を頼むかを考え込んだ跡は残っていない。後から整理すると、最初に渡した作業は、結果を自分の目で確かめられるものに偏っていた。
頼む作業は、同じところで 2 回つまずいたものから決まった
頼み方が変わった節目を記録で追うと、きっかけは毎回、同じ不具合の繰り返しだった。
決定の記録で最初に出てくるのは、決定を記録する作業そのものである。決定を残すたびに、3 つのファイルを手で編集して、紹介ページの更新を別に呼んでいた。順序を間違えたり、1 つ飛ばしたりすることが続いたので、「記録して」の一言で全工程が走る手順書にした。6 つのステップからなる。
次は、スキルや役割を足すときの反映漏れである。新しい手順書を足すたびに、一覧表、運用の説明、全体の説明と、4 か所に書き足す必要があった。決定が 3 件続けて、そのどこかが漏れた。最初の対処は、運用の説明にチェックリストを書き足すことだった。ところが記録には、その案の欠陥が自分で書いてある。管理用のファイルに決まりを足すほど、AI が常に読み込む文脈が重くなり、形骸化しやすくなる。そこでチェックリストを、呼んだときだけ読まれる手順書の側に移した。反映先を grep で全部確かめて、漏れがあれば完了を報告しない作りである。
3 つ目は、Claude Code の使い方の分析レポートで見つけた。24 セッション分を分析したレポートに、繰り返し起きている摩擦が 3 つあった。Firestore のルールをデプロイし忘れて権限エラーになる、デプロイの後にスクリーンショットでの確認を忘れる、記録の追記を忘れる、の 3 つである。対処の案は 3 つあった。決まりを書き足す、フックでリマインドを出す、手順書に一本化する。私が選んだのは 3 つ目で、記録にはその理由が残っている。決まりやフックは、AI が覚えていれば働く受け身の対策で、手順書は呼べば全工程を必ず通る。7 つのステップに、確認の工程も記録の工程も含めた。
この 3 件を並べると、何を任せるかの決め方が見える。思いつきで選んだのではなく、自分が同じところで繰り返しつまずいた作業から順に、手順書にしていた。任せる前に、どの作業で自分が何度も失敗したかが先にあった。
34 件を、どう任せたかで分けると、次のようになる。
| 任せ方 | 件数 | 例 |
|---|---|---|
| 手順書にした | 16 | 決定の記録、デプロイ、図解、サムネイル、公開後の突き合わせ |
| フックやバッチで自動にした | 11 | セッションの要約、過去メモの整理、週次の集計、組織定義のずれの検査 |
| 役割として常設した | 4 | 進行管理、調査、広報、実装 |
| その都度、会話で頼んだ | 3 | 自作アプリの実装、新規事業案の評価、記事の種の判定 |
最後の行は、手順書にもフックにもならなかったものである。実装は毎回中身が違い、事業案の評価と種の判定は、判断そのものを預けていた。そういう作業は、型にして繰り返す対象にならなかった。
続いたのは、出来を確かめる手段が一緒にあったもの
手順書や自動化になって残った作業を見ると、結果を確かめる手段が一緒に作られているものが多かった。
note への投稿は、最初はブラウザを自動操作する方式で作った。5 本の記事で、見出し、図、目次の数が原稿と一致するかを確かめて、方式を固めている。途中で踏んだバグは 4 件で、すべて失敗の記録に残した。確かめる手段があったので、直す箇所が見えた。
自動化の健全性の契約も同じである。セッションの終了時に動く処理が 32 回連続で失敗して、4 日間放置されたことがあった。原因は、親のセッションから子の AI を呼ぶと環境変数が引き継がれて、子が即座に終了する仕様だった。このとき私が書いた問いが、記録に残っている。なぜ 32 回も失敗しているのに、途中で報告も改善提案もなかったのか。症状ごとに通知を足す案は 5 つ出たが、新しい自動化が増えるたびに別の通知が要る。そこで、すべての自動化が実行の最後に自分の状態を 1 つのファイルに書く契約にして、集約する側はそのファイルを全部読むだけにした。新しい自動化は、契約を守って書くだけで観測の対象に入る。
過去記事との被りの検出は、検証が先にあった例である。次に何を書くかを AI に提案させたところ、公開済みの記事と全面的に重なる内容が「新しい路線」として返ってきた。参照できなかったことが原因なので、公開済みの記事 13 本を記憶の検索に取り込んで、書き始める前に類似を出すようにした。テストは 98 件通った。ところが実際に回すと、記事の語彙が似ていて、類似度が 0.83 から 0.93 の間に密集していた。数値の絶対値で被りを判定する方式は、原理的に効かなかった。順位で見る方式に改めて、1 位の記事を人が読んで判断する形にした。検証の手段があったから、最初の設計が効いていないことに気づけた。
配布する物に禁止語が混ざっていないかを検査する仕組みも、同じ型である。検査は 1 件でも検出したら赤になる。出来を機械で判定できる作業は、迷わず任せている。
続かなかったもの
続かなかった作業も、記録に残っている。
| 任せたこと | どうなったか | 記録にある理由 |
|---|---|---|
| note への投稿を、ブラウザの自動操作で | note の API を直接使う方式に移した | 図の位置が見出しから離れすぎると、貼り付けのときに見出しが 1 本落ちた(5 本が 4 本になった) |
| 図解を Python の画像ライブラリで作る | 私が却下した。生成は画像生成 AI と HTML の経路に限った | 出力の品質がブランドの水準に届かなかった |
| 過去メモの整理を、夜間の自動実行で | 廃止して、セッションを開いたときに走る形に一本化した | 最初の 1 週間は毎日、OS の権限制限で失敗していた。別の週にも毎日、同じ型で失敗した |
| X への告知投稿を MCP で自動化 | 手動に戻した。その後、告知を公開の流れに組み込まないと決めた | 書き込みだけが 403 で失敗した。後の決定の理由は、旧ブランドの時期に告知を出しても読まれず、私自身が X を使う習慣もないこと |
| 連載の企画を一括で回す手順書 | 手順書ごと廃止した | 難易度順に 1 本道で登る形は、入口の話題が尽きる構造だった |
| 通販サイトの商品を重複でまとめる機能 | 現状のまま残し、拡張は見送った | 実機で試すと、まとまった数が常に 0 件だった。実装と狙いがずれていた |
並べてみると、続かなかった理由は 3 種類に分かれる。道具の側の制約(投稿の自動操作、夜間の自動実行、X への投稿)、出来が基準に届かないこと(図解)、そして作業の目的と形が合っていなかったこと(連載の企画、重複まとめ)である。この分類は私が後から付けたもので、記録の側にあるわけではない。
最後の通販の拡張機能は、頼んだ作業自体は仕様どおりに動いていた。実機で試して、初めて効いていないと分かった。頼んだ作業が完了していても、頼んだ目的が満たされているとは限らなかった。
一度任せて、手元に戻したもの
手元に残した 20 件のうち、少なくとも 6 件は、一度任せて事故が起きてから戻したものだった。
| 一度任せたこと | 起きたこと |
|---|---|
| 委譲した AI に git のコミットをさせる | 「1 コミット完了」と報告されたが、履歴は動いておらず、変更が未コミットのまま残っていた |
| デプロイを「デプロイして」の一言で渡す | 指示にない git 操作が走り、作業ツリーが壊れた |
| 重い実装を大量に並列で起動する | 9 体を同時に起動して、全部が利用上限で止まり、実装がゼロ件になった |
| 調査を任せた結果をそのまま採用する | 技術仕様の誤情報を信じて、誤った方向に進みかけた |
| 公開版の照合を「ページを読ませる」方式で | 偽の「差分ゼロ」が出た |
| 出力を失ったときの再実行 | 投稿 API が非冪等で、下書きが重複した |
どれも AI に任せ続けて、自分に残ったものと、落ちたもの か、AI に指示ではなく環境を渡すようになるまで に経緯を書いたので、ここでは繰り返さない。この表で言いたいのは、線の引き方である。最初に「コミットは任せない」と決めたのではなく、任せて起きた事故のあとに、コミットはオーケストレータが直列で握る設計に変わった。並列は 3 体ずつのバッチに絞った。線引きは事前の分類ではなく、失敗の履歴として出てきている。
仕分けの基準を、記録から後で抽出した
2 つの一覧を見比べて、任せる作業と手元に残す作業を分けている基準を、後から取り出した。事前に決めた基準ではない。
| 基準 | 記録にある例 |
|---|---|
| 取り返しがつくか | 投稿 API の再実行は下書きが増える。コミットとデプロイは、報告と実態がずれると被害が残る。記事の公開は取り消せないので、出す判断は私が握っている |
| 出来を機械で確かめられるか | 投稿後の見出しと図の数の照合、禁止語の検査、被りの検出は迷わず任せた。確かめる手段のない作業は、任せるなら確かめる手段ごと作った |
| 判断そのものが成果物か | 記事の文体を AI に任せると、温かい文体を指定しても冷たい思索のエッセイに戻る。そのため、規範となる記事を固定して毎回そこに引き戻している。種の取捨は判定を AI に出したが、削除の決裁は私が持った |
| 運用できるか | 夜間の自動実行は OS の権限制限で成り立たなかった。X への告知は、私が使っていない場所なので成り立たなかった |
3 つ目の「判断そのものが成果物か」は、手順書にもフックにもならず、その都度頼んだ 3 件と重なる。事業案の評価と種の判定である。判断を預けたこと自体は事実だが、決裁は手元に残している。
もう 1 つ、記録に残っている決定がある。プロンプトのテンプレ集を作って配るのはやめた。入力を定型にするのではなく、環境の側を整えて、同じ内容ならどんな入力でも同じ成果が出る状態を目指す、という方針である。これは任せる作業の仕分けとは別の話に見えるが、何を頼めばよいか分からないときに、定型の依頼文を探しに行く方向には進まなかった、という記録でもある。
記録に残っていないこと
この記事で確かめられなかったことを書いておく。
記録が示しているのは、初日から頼んでいて、頼む範囲は、同じところでつまずいた回数と、確かめる手段が作れたかどうかで広がったということまでである。
34 件の分類と 20 件の理由は、私が記録から洗い出して付けたもので、読み方によっては違う分類になる。特に、続かなかった理由の 3 分類と、仕分けの 4 つの基準は、後から整理したもので、そう決めて動いていたわけではない。
また、これは 1 人が 1 つの環境で、最初の約 3 か月続けた記録である。個人の発信と制作の範囲に限っており、他の人の仕事に当てはまるとは限らない。確かめる手段を先に置いた作業が続いた、という傾向は記録から言えるが、確かめる手段を置けば何でも任せられると言えるだけの根拠は、この記録にはない。