木材は含水率が変わると寸法が変わる。継手や仕口は材と材を嵌め合わせて成り立つので、材の寸法変化は接合部に影響する[1]。本記事では、乾燥による収縮の仕組み、それが継手・仕口の緩みや割れにどう関わるか、緩みを抑える工夫として資料に書かれていることを扱う。継手が壊れる様子そのものは別の記事で扱う。
含水率と収縮の始まり
含水率は、木材の全乾質量に対する水分の質量の百分率で表す[1][2]。伐採直後の生材は多量の水を含み、スギでは 100% を超えるものが多い[2]。乾燥すると、まず細胞内腔の自由水から減る。自由水がなくなった状態を繊維飽和点といい、含水率は約 30% である[2][3]。佐藤氏の解説は、多くの樹種で 25〜30% の範囲とする[1]。
収縮は繊維飽和点を下回り、細胞壁の結合水が減り始めてから起こる[1][3]。その後、空気中の湿度と釣り合う気乾状態に至る。この平衡含水率は日本ではほぼ 14〜16% とされ[2]、15% ほどで安定するという説明もある[3]。
方向で違う収縮量
収縮量は方向によって異なる。年輪に沿う接線方向で最大となり、年輪を横切る半径方向はそれより小さく、繊維方向にはほとんど縮まない[1][2][4]。石川県林業試験場の資料によると、スギの気乾状態までのおよその収縮率は、軸方向 0.03%、半径方向 1.1%、接線方向 3.5% で、幅 10 cm の板目板では接線方向に 3〜4 mm 縮む[2]。佐藤氏は、生材から気乾状態までの接線方向の収縮率を樹種により 3〜8% とする[1]。樹種や比重で値はかなり変わるため、数値は目安である[1]。
この接線方向と半径方向の差が、乾燥中の割れやそりの原因になる[2]。
割れと背割り
髄を含む心持ち材は、接線方向のほうが半径方向より大きく縮むため、外周から髄に向かって放射状に割れが入る[1][5]。また、厚みのある材は表面から乾くので、表面が縮もうとしても内部は含水率が高いまま縮まず、表面に引張りの力がかかって割れが起きる[1][2]。佐藤氏の解説では、梁や桁のような大断面材で、この割れが数か月から 1 年以上かけて内部へ進むことがある[1]。
背割りは、割れる位置をあらかじめ決めて、表面の割れを抑える加工である[1][5][6]。製材後に末口から元口まで、髄に達する鋸目を入れる[1][6]。人目に触れにくい面に入れるのが基本とされる[5]。髄を外した芯去り材には入れないとする資料[6]や、省略する場合があるとする資料[5]がある。
ただし、背割りをした心持ち材でも、乾燥が不十分なまま使えば施工後に収縮が進む。佐藤氏は、12 cm 角の柱で背割りのない面が約 2 mm 狭くなる一方、背割りが約 6 mm 広がり、断面が正方形から台形に変わる例を挙げている[1]。
継手・仕口への影響
佐藤氏の解説では、継手・仕口をプレカットした部材が未乾燥のまま加工され、期間をおいて組み立てられると、組み立てるまでの間に収縮して嵌合しなくなる。また、未乾燥の部材を加工してすぐ組み立てると、施工後の収縮で結合部に緩みや割れが生じることがある[1]。
金物接合の例だが、木が痩せて接合部に隙間ができると荷重伝達性能が低下する可能性がある、という説明もある[7]。伝統構法の貫接合部についても、北守氏は、乾燥収縮や施工の誤差で隙間が生じると構造を固められないとする[8]。
資料で確かめられたのは、収縮によって接合部に隙間ができるという点までである。継手の種類ごとに緩み方がどう違うかを述べた資料は、確認できなかった。
緩みを抑える工夫
資料から確かめられた対策は次のとおりである。
- 乾燥材を使う。 平衡含水率に達した木材はその後の伸び縮みが抑えられる[2]。日本農林規格(JAS)は、人工乾燥した構造用製材の含水率の基準を、区分に応じて 15%、20%、25% 以下と定めている[2][15]。ただし、乾燥材でも湿度の変化で伸縮する。気乾状態の接線方向の膨張・収縮率は、含水率 1% の変化に対して 0.2〜0.4% である[1]。金物接合の資料も、含水率 15% 以下程度の乾燥材が望ましいとする[7]。
- 乾燥してから加工する。 佐藤氏は、背割りをした心持ち材の断面変形への対応として、荒挽きして乾燥させ、乾燥後に正しい寸法に挽き直すとしている[1]。
- 楔を打ち込む。 前節の貫接合部では、隙間が生じるため楔を打ち込んで締め固めると北守氏は述べる[8]。この記述は貫接合部についてで、継手一般には広げていない。
栓や車知については、金崎氏が整理する基本形の説明に、打ち込むにしたがって継手・仕口が締まるようにつくられているとある[9]。乾燥収縮の対策としての記述は確認できなかった。
組んだ後の継手を栓や楔で締め直す手順や頻度を述べた資料は、確認できなかった。
3D で見る
出典
- 佐藤健「水分変化による木材の寸法と形状の変化」木材保存 Vol.22-2(1996)日本木材保存協会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwpa1975/22/2/22_2_74/_pdf/-char/ja - 「よくわかる石川の森林・林業技術 No.6 スギ材の乾燥」石川県林業試験場(2004)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/ringyo/publish/documents/sugi_kansou_1.pdf - 「森林研究所たより 木材と水分について」新潟県
https://www.pref.niigata.lg.jp/site/shinrin/rin-nii-201308.html - 「木の大いなる特性『収縮』」マルホン
https://www.mokuzai.com/LearningWood/in_di-63 - 「木材の背割りとは?心持ち材・心去り材との違いと効果」構造設計ナビ
https://www.kouzou-navi.com/articles/seware.html - 「吉野産 柱角(役物・背割り)について」木材問屋
https://www.mokuzai-tonya.jp/blog/processing/2131.html - 「木材の乾燥収縮によって発生した羽子板ボルトの緩み」arch-assist
https://arch-assist.net/2026/05/06/wood-shrinkage-bolt-loosening/ - 北守顕久「木造建築千年の技術」京都大学生存圏研究所
https://www.rish.kyoto-u.ac.jp/logos/wp-content/uploads/2015/11/Kitamori_Kokai_2015.pdf - 金崎健治「WOOD JOINERY SYSTEM」慶應義塾大学 SFC(2011)
https://fab.sfc.keio.ac.jp/paper/files/2011_kanasaki.pdf - 「木材乾燥の重要なポイント」三重県林業研究所
https://www.pref.mie.lg.jp/ringi/hp/84196046149.htm - 杉田・大野「伝統構法『継手・仕口』をどのようにしたら伝承できるか」日本大学工学部 講演会 No.40
https://www.cit.nihon-u.ac.jp/kouendata/No.40/4_kenchiku/4-018.pdf - 「金輪継(かなわつぎ)」難波建築
https://www.nanbakenchiku.co.jp/kiji/blog/9726/ - 「建築士を目指す人向け!『楔』を解説!」宮下
https://miyashita-lww.jp/2026/02/21/%E5%BB%BA%E7%AF%89%E5%A3%AB%E3%82%92%E7%9B%AE%E6%8C%87%E3%81%99%E4%BA%BA%E5%90%91%E3%81%91%EF%BC%81%E3%80%8C%E6%A5%94%E3%80%8D%E3%82%92%E8%A7%A3%E8%AA%AC%EF%BC%81/ - 「伝統的な仕口・組手と継ぎ手について」清水木工房
https://www.kiri-shimizu.com/fitting/ - 「製材の日本農林規格 JAS 1083」農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_standard/attach/pdf/index-481.pdf - 「第2章 収縮と割れ」オーアイ・イノベーション
https://www.oin-s.co.jp/dry/basic/02.html